[本]『習得への情熱』努力の天才(変態)が教える最高のパフォーマンスを上げる方法

問い「どうすれば自分の力を最大限発揮することができるのか?」

状況や感情に支配されることなく、自分の力を最大限発揮することは可能でしょうか。ジョッシュ・ウェイツキン(Josh Waitzkin)著『習得への情熱―チェスから武術へ―:上達するための、僕の意識的学習法』は、チェスと推手(武術)のトップクラスの競技者である著者が「習得の技術」としてその方法論を、自己の半生を振り返りながら語ったものです。

答えを3項目にまとめました。

  • ルーティンによって最良の心理状態をつくり、(引き金を構築する)
  • 環境・感情のマイナス要因をプラス要因に変え、(サンダルを作る)
  • 自己を滅却し、今に在ることによって。(ソフトゾーンに入る)

『習得への情熱』のキーワード

  • ソフトゾーンに入る:ハリケーンの中でもしなやかに動き生き延びる草の葉の在り方。
  • サンダルを作る:環境をねじ伏せるのではなく、知性的な心の柔軟性によって、カオスの中でも道を見つけられるようにすること。(インドのことわざ「茨の道を歩くためには、その道をことごとく革で覆うか、サンダルを作るか、二つの方法がある。」より)
  • 引き金を構築する:ルーティンによって心の在り方を作ること。呼吸やストレッチ、音楽など。

サンダルを作る

このなかで特に印象に残ったのは、「サンダルを作る」という独特の方法論でした。ミスをしたり、卑劣な行為に遭遇したりすると、人は動揺して感情に支配されてしまいます。しかしその感情は、周波数を合わせることで集中力に転化することができるといいます。感情といううねりを利用し、その波に乗るのです。

 

もちろんそれは口で言うほど簡単なことではありません。著者はあえて反則行為に及ぶ苦手な選手と繰り返し練習するなど、彼にとっての強い感情である「怒り」に向き合うことを自らに課します。怒りにかられる状況を、心が乱れる限界を押し広げる機会と捉えるのです。これは、自分自身の不完全さ・ナーバスさを押さえつけるのではなく、それ自体を利用してより強い集中力へと導く方法といえます。これによりカオスの中で道を見つけることが可能になります。それどころか、状況が混乱したものになればなるほど余計に気が楽になり優位になる、といいます。マイナスの環境・感情にパフォーマンスを邪魔させないどころか、助ける力に変えてしまうのです。

 

「サンダルを作る」ことは、マイナスをプラスに変えることにとどまりません。逆境をアドバンテージとして利用する方法が身についたら、逆境なしでもその効果が得られるようにしっかり身に着けていきます。結局は自分の感情が茨の道を歩くサンダルの材料なのですから、外側に問題がなくても自分の微細な感情に向き合うことで集中力を高める助けとすることができるのでしょう。

負の投資、小さな円を描く

その他にも習得の技術として、次の方法論が書かれています。
  • 負の投資:ビギナーは不安定で無防備な時期に耐え、抵抗しないすべを学ぶ必要がある。エゴを捨てて、いくら投げ飛ばされても平気でいること。そうしてその技術の原理を体で学ぶことが、その後の成長に大きなプラスとなる。(「アグレッシブな力は虚に触れると勝手に自己破壊する」というようなことを体感する。)
  • 小さな円を描く:ごく限られた動作を繰り返し練習して磨く、キングとポーンだけでチェスを学びはじめる、などの行為。トップになるために必要なことは、基本的技術に深く熟達すること。微細でデリケートなものを吸収して磨くことが、無意識でクリエイティブな潜在性を引き出すことに役立つ。

過程としての習得に、感情は助けとなる。そして今に在ること。

著者は、とにかく自己の内面を含めたこの世界のすべての現象を、学びと成長の機会としていきます。試合に勝つという目的はもちろん揺るがないものとしてあるものの、そこに至る過程そのものも同時に目的であるのです。

 

勝利は一瞬ですが、習得・成長は決して点としては存在せず、常に過程的な流れとして存在します。自分の微細な感情にしっかりと気づいていることが、その学びの助けになるのだということを学びました。「今に在ることの力」について、ここまで実践的、具体的に書かれている本は珍しい。まったく、すごい本でした!

 

ジョッシュ・ウェイツキン(Josh Waitzkin)著
習得への情熱―チェスから武術へ―:上達するための、僕の意識的学習法

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